最終更新日 2023年7月18日
こんにちは、竜崎(@ddd__web)です。
古代から現代まで語り継がれている神話の中には、現代を生きる人たちの人生教訓になる話があります。
多くの人は神話を宗教じみたものと敬遠しがちですが、発売されたばかりのビジネス書や、読んでも次の日には忘れている自己啓発本などを読むよりも、神話を読んだほうが格段に人生の役に立ちます。
神話が現代まで語り継がれているのは、紛れもなく人生の役に立つからです。
神話が役に立たないものであるなら、とうの昔に物語のプールの中からはじき出されているでしょう。
神話の重要性は、神話が古代から現代まで教訓として生き残っていることが証明しています。
今回の記事で取り上げるのは、古代ギリシャの詩人であるホメロスの「オデュッセイア」という物語の一部です。
オデュッセイアの物語は、人間の意志がどれだけ弱いものなのか、そして弱い意志をどのようにコントロールすればいいかを教えてくれます。
興味がある人は、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
ホメロスのオデュッセイア
ホメロスのオデュッセイアの物語には、知る人ぞ知る「セイレーン」が登場します。
セイレーンとはギリシャ神話に登場する、上半身は人間の女性、下半身は魚のような姿をしている海の怪物です。
オデュッセイアの中では、セイレーンはある一帯の岩礁から旅人を惑わす美しい歌声を響かせ、航行中の船を難破させたり遭難させたりしていました。
セイレーンの歌声には誰も抗えず、歌を聞いたものはたちまち船をセイレーンの方へ舵を切り、そのまま岩礁に打ちつけられて難破しまうのです。
しかし、トロイア戦争の立役者であり、聡明で英雄として尊敬を集めるオデュッセウスは、セイレーンの歌声から唯一逃れる者となりました。
さて、オデュッセウスはどのようにしてセイレーンの歌声から逃れたのか。
セイレーンの歌声
オデュッセウスがセイレーンの歌声を聞いたのは、トロイア戦争の帰り道のことでした。
オデュッセウスは戦争でともに闘い、生き残った戦士を率いてギリシアへの帰路を辿っていました。
航行中はさまざま苦難や障害にも見舞われましが、オデュッセウスは持ち前の知略を駆使し、どんな障害をもモノともしませんでした。
しかし、そんなオデュッセウスも一つの不安を抱えていました。それがセイレーンの存在です。
セイレーンは海の怪物として知られていましたが、同時にその美しさも船乗りの間で語り継がれていました。
さらに、その美貌から紡ぎ出される歌声はこの世で一番美しい歌声とまで言われ、その歌は船乗りの欲望に囁きかけ、船を岩礁へと打ちつけ座礁させるほどです。
オデュッセウスはセイレーンの歌声の危険性を知りつつも、どうしても彼女の歌を聞きたいと思いました。
ですが、これまでセイレーンの歌声を聞いて生き残ったものはいません。歌声を聞いたが最後、船乗りは正気を失い、船から飛び出してしまうのです。
そこでオデュッセウスは自身の知略を活かし、セイレーンの歌声を楽しみつつも、船員全員が無事でいられる方法を考えました。
オデュッセウスの知略
オデュッセウスはトロイア戦争からの帰路の際、事前に魔女キルケからセイレーンについての忠告を受けていました。
そこでオデュッセウスは、部下の戦士たちの耳の穴を蝋で塞ぐという策を講じました。
たとえセイレーンの歌声がどれだけ美しかったとしても、耳を塞いで聞こえなくすれば危害はないと考えたのです。
しかし、それではセイレーンの歌声を聞きたいオデュッセウス自身も困ってしまいます。
オデュッセウスは再び考え、そして自分だけセイレーンの歌声を楽しむ方法を思いつきました。
それは自分の体を船のマストに縛りつけるというもの。
部下たちは耳を蠟で塞ぎ、オデュッセウスは耳を塞ぐかわりに身動きを取れないように自身を拘束したのです。
部下たちには、たとえ自分がどれだけ暴れまわろうとも、セイレーンが住む岩礁から離れるまでは決して縄を解くなと命じました。
さて、オデュッセウスの船はセイレーンの岩礁の近くを通りかかり、次第にセイレーンの歌声が響いてきました。
オデュッセウスはセイレーンの歌声を聞くと、たちまち部下たちに縄を解けと怒鳴りつけました。
しかし、部下たちは蝋で耳を塞いでいるため、セイレーンの歌声はもちろん、オデュッセウスの怒鳴り声も聞こえない。
部下の目には、ただ青筋を立てて口をパクパクさせるオデュッセウスが写っているだけです。
船は無事にセイレーンの岩礁をくぐり抜け、オデュッセウスの船は誰一人として欠けることなくギリシアへと帰っていきました。
オデュッセウスに殺されたセイレーン
オデュッセウスはセイレーンの歌声に対抗するため、部下たちの耳を蝋で塞ぎ、自身をマストに縛りつけました。
普通なら自分も含め、みんなで耳を蝋で塞ぐだけでよかったものの、セイレーンの美しい歌声を聞きたいがために、マストに縛りつけるという策を考えたのです。
オデュッセウスが本当の意味で賢かったのは、自分にはセイレーンの歌声に対抗するだけの意志の力がないと見抜いていたこと。
オデュッセウスはトロイア戦争での英雄です。そして英雄というのは、往々にして自身の力を過大に評価してしまうもの。
しかし、オデュッセウスは違いました。
英雄でありながら、自分の弱さを認め、セイレーンの歌声を聞けばたちまち正気を失ってしまうことを理解していたのです。
だからこそ、部下たちに頼み自身をマストへ縛りつけました。
そして、この物語には続きがあります。
実はセイレーンの歌声を聞いて生き残った者がいたときは、セイレーンの自身が死ぬ運命にあったのです。
オデュッセウスが知略でセイレーンの歌声を克服した後、セイレーンは海に身を投げて自殺しました。
セイレーンの死体はそのまま岩となり、岩礁の一部となったと言われています。
ホメロスのオデュッセイアから学べる教訓
ホメロスのオデュッセイア、セイレーンの神話で注目すべきは、船員を魅了するセイレーンの美しい歌声ではありません。
オデュッセウスの、自分の未来の行動をコントロールする知恵です。
オデュッセウスは人間の意志がとても弱いことを知っていました。
自分は英雄でも、セイレーンの歌声に惑わされない意志の強さを持っていると思い込むことはなく、自分のことを過大評価せず、人間の意志の弱さを悟っていたのです。
セイレーンの神話からは、意志をどのようにコントロールすべきかを学べます。
人間は意志が弱い生き物ですが、弱いことは欠点ではありません。
オデュッセウスのように頭を働かせれば、意志の弱さも克服することができるのです。
人間は意志が弱い生き物
何度も言いますが、人間は意志がとても弱い生き物です。
今日から勉強を頑張ろうと思ったり、明日からダイエットしようと思ったりしてもすぐに挫折してしまいます。
というのも、人間の頭の中には、言い訳や自分の感情を正当化するための優れた機械があるのです。
それは頭の中の左脳という部分であり、人間の左脳は物語を作る高性能のインタプリタのようなもの。
習慣を形成しようとしたり、なにか新しいことをはじめたりしようとするときに、左脳は「できない理由」「やらない言い訳」「正当性のある根拠」をつくり出し、自分の行動を一生懸命正当化してしまいます。
左脳は言い訳を作りだす高性能の機械のようなもの。
これは特定の人間にだけ言えることではなく、人間である以上すべての人が抱えている脳の欠陥であり、左脳の物語をつくる能力を抑えることは誰にもできません。
そのため、自分が決めたことをいとも簡単に忘れ、やらなくていい言い訳をつくり出し、自分は一貫性のある行動をしていると思い込むことになります。
ですが、現実には一度決めたことを貫き通して生きる人もいれば、やるべきことを毎日淡々と積み重ねている人もいるでしょう。
そうした人たちは、セイレーンに挑むオデュッセウスのように、どうすれば意志をコントロールできるかをしっかりと理解しています。
考えるべきは、自分の意志の弱さを認め、意志を手懐ける方法です。
自分の未来の行動をコントロールする
オデュッセウスは人間の意志の弱さを知っていたために、セイレーンの歌声に惑わされることなく船の難破を防ぐことができました。
ホメロスのオデュッセイアから学べる教訓は、自分の未来の行動を予測し、予期せぬ行動をとることをあらかじめ回避することです。
ダイエットを例に考えてみましょう。
ダイエットをすればある程度の食事制限や運動の習慣を続けなければならず、継続なくしてダイエットが成功することはありえません。
しかし、なにかを毎日続けるのは難しく、すぐに結果が出なかったり、進歩を感じなかったり、キツくて我慢できなくなったりして、多くの人は途中で挫折してしまいます。
ですが、英雄であるオデュッセウスの知恵を拝借し、セイレーンの歌声を聞いたあとの自分の行動をコントロールするように、ダイエットを実践しているときに自分の中に沸いてくるであろう欲求や言い訳といった行動をあらかじめ予測することはできます。
そして、あらかじめその行動に対する対処法を考えておくことで、ダイエットの挫折を防ぐことができるのです。
たとえば、食事制限によってストレスの蓄積による暴飲暴食という行動が考えられるのであれば、あらかじめ一週間の特定の日をチートデイにし、好きなものをなんでも食べていい日をつくっておくという方法があります。
普段からある程度食事制限をしていれば、一週間のうち一日や二日食べすぎても太ることはありません。
ダイエットが挫折するのは、過度な食事制限を長期間続けることで、ストレスによるリバウンド効果で暴飲暴食を続けてしまうことにあります。
そのことを見越し、ストレス発散日としてチートデイを設定しておくことで、ストレスを過剰に溜め込むこともなく、食事制限を長期間継続することができるでしょう。
意志の弱さを手懐ける
人は何かを習慣化しようと決めても「やらなくていい言い訳」を左脳が自然とつくり出してしまいます。
それが結果として、長期的な目線に立った行動ではなく、短期的な目線に立った行動へと駆り立て、目先の快楽や欲望に目を向けることにつながるのです。
セイレーンの歌声の犠牲になった人たちも、歌声を聞いた後の未来の自分という長期的な視点からでなく、短期的な視点から自分のことを考えていました。
つまり、今現在の自分の感情と未来の感情を同じものと考えていたのです。
現時点の自分の頭の中には「できる理由」や「やることによるメリット」といったさまざまな考えが浮かんでいます。
でもそれは、実際に行動を起こした後に頭の中に浮かんでくる考えとはまったく違ったものです。
セイレーンの歌声を聞いた後の船乗りの感情は、聞く前の時点では決して知ることはできません。
人が自信過剰になってしまうのは、未来の事柄を予測できると思い込んでいるからです。
意志をコントロールするためには、行動を起こす前に行動を起こした後の自分の感情を予測し、その感情が沸いてきたときに対する対処法を考えておく必要があります。
一時の感情に従って行動を起こしていれば、セイレーンの歌声に抗うことはできません。オデュッセウスも決してギリシアまでたどり着けなかったでしょう。
オデュッセウスのように自分の未来の行動を予測し、行動を起こす前に対処法を講じておけば、セイレーンの歌声(やりたくない言い訳)にも負けることなく意志を手懐けることができるはずです。
まとめ:ホメロスのオデュッセイアからは、意志のコントロール方法が学べる
今回の記事では、ホメロスのオデュッセイアという物語から学べる教訓を解説してきました。
まとめは以下のとおり。
- ホメロスのオデュッセイアからは、意志をコントロールする方法を学べる。
- オデュッセウスは自分をマストに縛りつけ、セイレーンの歌声から逃れた。
- 人間の意志は弱いため、自分の行動を予測して対策を立てることが大事。
- 左脳は言い訳ややりたくない理由などを作り出す、高性能の機械。
- 意志をコントロールするには、未来の自分の感情を知る必要がある。
ホメロスのオデュッセイアは、古代から現代まで伝わる神話です。
セイレーンの物語はその一部ですが、この神話からは意志をコントロールする方法が学べます。
オデュッセウスは英雄にも関わらず、自分を過大評価することなく、意志の弱さ対して対策を立てていました。
自分をマストに縛り付けることで、セイレーンの歌声を楽しみながらも、船の行き先をしっかりコントロールしたのです。
こうした対策は、勉強やダイエット、筋トレやその他の習慣を継続する上でとても役立ちます。
将来の自分の感情を予測し、その感情に対して現在から対策を立てることで、挫折することを防ぐことができる。
ホメロスのオデュッセイアに限らず、古代の神話の中には学ぶべき教訓がたくさんあります。
興味がある人はぜひ古典を読んでみてください。
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