最終更新日 2025年6月19日
神学者であるラインホールド・ニーバーが書いたとされる「ニーバーの祈り」には、生きていく上でとても大切なことが書かれています。
神よ、変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気を我らに与えたまえ。
変えることのできないものについては、それを受け入れるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを識別する知恵を与えたまえ。
これは全体のはじめの一部を抜粋した文章に過ぎませんが、そこに記されているのは人生において「勇気・理性・知恵」が何よりも大事ということです。

どちらかというと、「神は死んだ」と述べたニーチェに同意している人間で、神を信じていたり信仰もありません。
ですが、ニーバーの祈りは、私が人生の指針としているストア派の目的である、「より良く生きるため」にも通じるところがあるのです。
今回の記事では、ニーバーの祈りの意味について詳しく解説していきます。
目次
ニーバーの祈りの意味
ニーバーの祈りは、今では古い格言として引用されることがありますが、その意味について深く考える人は少ないです。
しかし、ニーバーの祈りが述べていることは、人生をより良く生きるための参考になります。
勇気と冷静さと知恵を持つことは、人生を生きる上で何よりも大切なもの。
それぞれの意味について、簡単に解説していきます。
安定にしがみつくのは勇気がないから
私はニーバーの祈りに反し、変える勇気と受け入れる冷静さと見極める知恵を持っていなかったがために、人生の中で後悔する選択をいくつもしてきました。
変わらなければならないとわかっていながらも、どうしても変わる勇気を持てずに、ダラダラと時間を無駄に過ごしてしまったこともあります。
どうしようもできない物事に対しても、自分の欲求や欲望に負けて感情的に振る舞い、子どものように駄々をこねて周りに迷惑をかけたこともあります。

人が人生のあらゆる面で現状維持を望むのは、心理学的にも明らかになっています。
仕事やお金といった生活に関わる部分において安定を求め、なにがなんでも失わないように必死に努力する。
自分のやりたいことよりも世間体を気にしたり、結婚と同時に牙が抜かれたように好奇心がなくなったり、やりたくもない仕事を生活費のために嫌々やり続ける。
こうした状況は、変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気がないために陥る状態です。
安定を望むこと自体は悪いことではありませんが、人生は変化していくものであり、変わらない日常が続いていくものではありません。
勇気を持って何かを変えない限り、歳をとるにつれて人生は無味乾燥としたものになってしまいます。
変えられないものを受け入れる冷静さ
人生では、どんなものであってもいつか必ず変化していきます。
たとえば、仕事にしても会社が倒産すれば終わりで、仕事がなくなればお金もなくなります。
今の仕事や収入が生涯続く可能性は限りなく低く、いつか必ず変化が訪れるものです。
そして、こうした変化に対しては、人間はどこまでも無力なもの。
人生には、自分の力で変えられるものと変えられないものがある。
会社の倒産や収入が途切れることは、自分の力では変えられないものです。
一方、会社が倒産したことに対し、これからどうするか?といった部分については自分の力で変えられます。
倒産したことにいくら泣き叫んでも、それは自分の力では変えられないものなので、結果は変わりません。
ですが、倒産したことをきっかけに、何か新しいことをはじめようと思うかどうかは、自分の力で変えることができます。
自分の外側にある出来事の多くは、自分の力で変えられないもの。
自分の内側にある出来事は、自分の力で変えられるもの。
これはストア派の知恵でもあります。
ストア派であるエピクテトスは奴隷から哲学者になりましたが、彼は奴隷状態にあっても自らは自由で幸福であると考えていました。
たとえ奴隷であっても精神の自由、意志の自由までは誰にも奪われることはなく、自分の考え方次第で幸にも不幸にもなると知っていたのです。
ニーバーの祈りが言うように、自分の力で変えられないもの、変えることのできないものについては、それを受け入れるだけの冷静さが必要となります。
物事を見極める知恵
私を含め、多くの人は自分の状況や環境を「変える勇気」がなく、自分の力で変えられない出来事を受け入れるだけの「冷静さ」も持っていません。
思い通りにいかないことがあればイライラしてしまい、変えなければならないことがあっても、何も行動しないことがよくあります。
そしてさらにやっかいなことに、私たちは勇気と冷静さを持っていないだけでなく、自分の力で変えられないものと変えられないものを見極めることもできません。

たとえば、自分に降り掛かった出来事が自然災害ではなく、自分の家の火事の場合を考えてみましょう。
火事の原因にもよりますが、おそらく大多数の人は「もっと気をつけていれば火事を防ぐことができた」と思います。
でも実際には、火事が起こるかどうかは自分の力ではどうしようもできないことです。
タバコをちゃんと消すなり、ガスの元栓を閉めるなり、ある程度は自分の力で火事を未然に防げるかもしれませんが、最終的に火事が起こるかどうかは自分の力ではコントロールできません。
火事が起きる確率は下げられても、実際に火事が起こるかどうかまではコントロールできない。
どんなに気をつけていても、窓から入る太陽光がガラスに反射して絨毯に火をつける可能性だってあります。
もしくは、隣の家の火事が自分の家まで燃え移る可能性もゼロではありません。
ここで重要なのは、ある程度なら自分で変えられるが、完全には変えられないという点です。
こうした、変えられるものと変えられないものの区別は、知恵がなければできません。
ニーバーの祈りを実生活に活かす
ニーバーの祈りは、勇気・冷静さ・知恵の3つがいかに重要であるかを説いています。
では、実生活にニーバーの祈りを活かすにはどうすればいいのか。
ポイントは以下の3つです。
- 現状維持をやめて勇気を持って行動する
- 変えられなかったことは冷静に受け入れる
- 知恵で出来事を分類する
現状維持をやめて勇気を持って行動する
多くの人は、なんとなく現状維持に満足し、繰り返す毎日にそれなりに満足しながら生きています。
しかし、それでは人生は悪くなっていくことはあっても、良くなっていくことはありません。
「現状維持は後退」という言葉があるように、何もせず現状に満足したままだと、何も成長がなく、ただ年老いていくだけです。

自分で変えられるものを自分の手で変える勇気を持ち、今よりも豊かな人生を目指して行動していく。
人はわからないものに対して不安を抱くように、今あるものを変えることにも不安を抱きます。
その不安を勇気で払拭し、自分の手で変えられるものを変えながら生きていく。
それがより良い、豊かな人生につながっていきます。
変えられなかったことは冷静に受け入れる
さきほどの火事の例のように、ある程度なら自分で変えられても、最終的にはどうなるかわからない場合、「本当は自分の力でどうにかできたはずなのに」と勘違いしてしまいます。
自分の力でどうにかできたのに、それがどうにもできなかったとき、人は罪悪感を抱くものです。
自分のせいではないことでも自分のせいにし、すべて自分が悪いと責めてしまう。
ニーバーの祈りにある、「変えられるものと変えられないものを識別する知恵」とはまさにこのこと。
人が思い悩むことの多くは、自分では変えられないことまで必要以上に自分で背負い込んでしまうことにあります。
「諦めが肝心」にも似ていますが、人生ではどうしようもできないことは、どうしようもできません。

大事なのは自分の不幸を恨むことではなく、変えられないものを受け入れる冷静さを持つことです。
変えられないものは変えられない、その事実を受け入れ、変えられるものに集中して人生を良くしていきましょう。
知恵で出来事を分類する
ニーバーの祈りでは、「変えることのできるものと、変えることのできないものとを識別する」ことを知恵と呼んでいます。
しかし、世の中には「変えることのできるもの」と「変えることのできないもの」以外にもうひとつ、「変えられるけれど、変えられないもの」もあります。
変えられることのできるものは、自分の手で努力して変えられるもののこと。
変えることのできないものは、自分の手では変えられない、どうしようもできないものこと。
変えられるけれど、変えられないものは、ある程度は結果に影響を与えられても、最終的な結果は完全には変えられないもののこと。
3つ目の「変えられるけれど、変えられないもの」は、さきほどの火事の例や、病気、試合の結果などの物事に当てはまります。
病気は普段から食生活に気をつけたり、運動をしたりすれば、病気になる確率は低くなるはずです。
ですが、最終的に病気になるかどうかまでは、自分では完全にコントロールできません。
試合の結果や、仕事の昇進、友達や恋人との関係性といったことも、できる限り良くなるように努力はできるけれど、最終的な結果は神のみぞ知るです。

起きた出来事が、3つのどれになるかを判断するポイントは、「努力がどれだけ結果に影響するか」。
もし、努力が結果に完全に影響するなら変えられるもの、結果にまったく影響しないなら変えられないもの、結果に影響するけどどうなるかわからないなら、変えられるけど変えられないものです。
出来事を3つに分類し、自分の手で変えられるものだけに集中することで、ストレスが格段に減り、より良い人生になっていきます。
勇気と冷静さと知恵を持とう
自分の力で変えられるものは、完全に自分の内側にあるものだけです。
自分のこれからの行動、生活、意志、計画、目標といったものは自分の力で変えることができます。
私たちはそれらを変える「勇気」を持たなければなりません。
ですが、それ以外の外的な出来事は、自分の力で変えられないか、ある程度しか変えられないものです。
人は自分ではどうしようもできないことを、どうにかしようとするから思い悩みます。
私たちはそれらを受け入れる「冷静さ」を持たなければなりません。
人生に嫌気が差すときは、変えられるものを変えず、変えられないものを無理やり変えようとしているときです。
そうした勇気と冷静さが欠けた行動は、心の平静を大きく乱します。
私たちは変えられるものと、変えられないものを見極める「知恵」を持たなければなりません。
勇気・冷静さ・知恵の3つを持てば、まさに人生の鬼に金棒です。
ニーバーの祈りをただの格言として覚えるのではなく、実生活に活かすことで、より良い人生を生きられるようになります。
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まとめ:ニーバーの祈りは人生の悩みを減らす
ニーバーの祈りは、ストア派で言うところの「より良い人生」のために必要なことが書かれています。
神よ、変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気を我らに与えたまえ。
変えることのできないものについては、それを受け入れるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを識別する知恵を与えたまえ。
自分が変えられるものは勇気を持って変えていき、変えられないものは冷静さを持って受け入れる。
それだけで心が大きく乱れることが減り、自分のやるべきことに集中して生きていくことができます。
変えられるものと変えられないものを見極める「知恵」を身につけることは難しいですが、変えられるものは自分の内側にあるものだけだと考えておくのがいいでしょう。
自分の外側にある出来事は自分には変えられず、自分次第でどうにかできるものは勇気があれば変えられる。
これだけでも、日常生活の中での悩みは格段に減ります。
ニーバーの祈りは、思い通りにいかない人生で勇気を失い、情報の波に溺れて冷静さを失い、なんでも思い通りにしようとする人への処方箋になるものです。