最終更新日 2025年6月19日
古代ギリシャにはさまざまなお話があり、たくさんの教訓を与えてくれるものもあります。
たとえば、プラトンの著書「国家」には、「ギュゲスの指輪」という話があり、これは現代を生きる私たちにも役に立つものです。
あなたは、もし透明人間になれる指輪を手にしたら、どうしたいですか?
この記事では、ギュゲスの指輪をわかりやすく解説し、人間の幸せについて考えていきます。
哲学が好きな人、思考実験が好きな人は、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
ギュゲスの指輪とは?
ギュゲスの指輪は、プラトンの著書「国家」に書かれている、透明人間になれる指輪のお話です。
哲学的な問題に興味がある人は聞いたことがあるかもしれませんが、ギュゲスの指輪は「トロッコ問題」と同じく、今でも道徳的な話題でよく取り上げられる問題のひとつ。
大雑把な概要としては、以下のとおり。
ギュゲスの指輪は、自在に姿を隠すことができるようになるという伝説上の指輪であり、リュディアの人ギュゲスが手に入れ、その力で王になったという。
グラウコンは、誰にも知られず不正を行なうことができる場合に、ギュゲスのように不正を行なって栄華を極める人と、正義を貫いて何も得ない人と、どちらが良い人生を送ったと言えるのかとソクラテスに質問した。
正義を勧めるときに、世の人々は良い評判が利益につながることを理由として挙げるが、それは人に知られず不正を働き、良い評判を得たまま利益もおさめられればよいという考えにつながらないかという疑問である。
ギュゲスの指輪とは、プラトンの兄であるグラウコンがソクラテスに対して投げかけた疑問のことです。
ギュゲスの指輪は、人間の中に眠る道徳や倫理に深く根付いた問題であり、人生をより良く生きるためにはどう生きるべきかという問題にもつながります。
絶対に誰にもバレずに悪いことができるとき、どう行動するのが正解なのか。
こうした思考実験は、自分の生き方を考える上でも大切なことです。
ギュゲスの指輪の思考実験
ギュゲスの指輪は伝説上のモノであるため、当たり前ですが現実には透明になれる指輪は存在しません。
ドラえもんには被れば透明になれる「透明マント」がありますが、残念ながら21世紀の現時点では、透明になる方法は科学的にも生物学的にも見つかっていません。

ギュゲスの指輪のお話から考えるべきは、自分がギュゲスの指輪を手に入れ、実際に透明になれるとしたらどういう行動をとるか?ということ。
自分の行動は自分でも予測できない
ギュゲスの指輪に対する、ほとんどの人の答えは、他人のいる前では「仮に透明になれたとしても悪いことには使わない」というもの。
そんな指輪を手に入れたとしても、他人に迷惑がかかるような悪いことには使わず、自分のためだけに使うと言う人が大半です。
しかし、人間の脳では、ギュゲスの指輪を手に入れていない現在の自分からは、ギュゲスの指輪を手に入れた自分の行動を予測することはできません。

人が未来の出来事による、感情の強さや持続時間を過大評価する認知バイアスの一種。
実際にギュゲスの指輪を手に入れたとき、どういう感情が自分の中に沸き上がってくるかは、自分でも知ることができません。
今の自分は透明になれる指輪なんて持っていないからこそ、手に入れたときにどういう行動をとるかを真剣に考えることができないのです。
だからこそ、普段から「自分はどういう人間なのか」を考えることが、ギュゲスの指輪を手に入れたときの、自分の行動を知る手がかりになります。
ギュゲスの指輪vs理性の力
人は他人が近くにいるときには、世間的に認められている倫理的な言動をする傾向があります。
特に、近くにいる人が好きな人だったり、いいところを見せたいと思っている相手、恥ずかしい姿を見せたくないと思っている相手であるときにはなおさらです。
しかし、実際に誰にも知られずに悪いことができる誘惑に駆られたとき、人は理性を保ちながらも、正しいと思っている行動をとることができるのか。
これこそ、ギュゲスの指輪が問いていることです。
人間は理性を持っているからこそ、ほかの動物よりも賢い生物として存在しています。
古代の哲学者たちも、人間の理性ほど大切なものはないと述べているほどです。

あなたは、ギュゲスの指輪が持つ魔力を、理性の力で制することができるでしょうか。
ギュゲスの指輪を手に入れたら何をする?
ここで思考実験をしてみましょう。
透明になれる指輪を手に入れた自分を想像し、その後自分がどういう行動をとるかここで真剣に考えてみてください。
透明になれるということは、知らない人のお家に侵入してお金を盗んだり、スーパーやコンビニから食べ物を万引きしたりできます。
気になっている異性の家に侵入したりすることができ、友達の家から欲しいものを盗むこともできます。
今までのようにお金を稼ぐために働く必要はなく、捕まる心配をすることなくお金を手に入れることができる。
タクシーや飛行機にだってタダ乗りすることができ、どこにでも世界中自由に旅行することもできる。
少し考えてみただけで、透明になればできることが次から次へとたくさん思い浮かんできます。
もちろん、上記の行動はすべて犯罪であり、現実では絶対にしてはいけないことです。
しかし、ギュゲスの指輪を手に入れたとき、道徳観や倫理観を損なうことなく、こうした行動をしないように理性で自分を制することができる人はどれだけいるでしょうか。
あなたはどうですか?
ギュゲスの指輪に対するソクラテスの答え
ギュゲスの指輪は、「人はどうすれば幸せになれるのか」についてのひとつの答えを教えてくれます。
実際、多くの人は、もし本当にギュゲスの指輪が存在し、自分がそれを手に入れたとしたら、誰にもバレないのをいいことに自分の好きなように使うはずです。

ですが、ソクラテスはそれでは幸せにはなれないと語ります。
ギュゲスの指輪に対する、ソクラテスの答えを見ていきましょう。
幸せは自分の精神状態で決まる
プラトンの兄であるグラウコンはソクラテスに対し、
ギュゲスの指輪を持っていても、自分の道徳や倫理、正義や信念を貫いてなにもせずにいる人。
誰にもバレることなく悪いことをたくさんし、億万長者や成功者になって悠々自適な生活を送っている人。
このどちらが幸せであるかを問いかけました。
ソクラテスは以下のように答えています。
たとえ誰にもバレずに悪いことができ、なおかつそれにより名誉や成功、富や権力を手にすることができたとしても、それはしょせん見せかけのものである。
人間においてもっとも大切な精神が汚れてしまっているため、本当の幸せは感じられない。
ソクラテスは自由や成功、幸せや充実といったものは、外的な環境(この場合はお金や名誉)によってもたらされるものではないと言っています。
つまり、幸せというのは自分の内部の状態、精神の状態によって得られるということです。
悪いことをすれば罪悪感で不幸になる
ギュゲスの指輪をつけ、たとえ絶対にバレる心配がない状態で悪いことをしても、悪いことをすれば精神には罪悪感や嫌悪感といった目に見えない負担が降りかかる。
そして、そのネガティブな感情により精神的に追い詰められてしまう。

これは誰もが、一度は似たような経験をしたことがあるものです。
犯罪をおこなった人が、罪悪感や逃亡に疲れて自首することがあるのと同じく、悪いことをすればどこか罪悪感や後ろめたさを感じる。
そして、その罪悪感と後ろめたさによって人は不幸になる。
ソクラテスは、ギュゲスの指輪を手にしたとしても、自分の欲望のままに使うのは避けるべきと言います。
悪用して一時的に欲望が満たされたとしても、時間が経つにつれて罪悪感によって永遠に苦しむことになる。
よく言われているように、幸せは手にするものではなく「気づく」ものであり、自由も手に入れるものではなく「感じる」ものなのです。
自分はどういう人間なのかを知る
プラトンやソクラテスといった哲学者は、今から約2400年前に生きていた人たちです。
ですが、彼らは現代人よりも「より良く生きる」ことを真剣に考え、ギュゲスの指輪のような問題提起を幾度となくおこなっていました。
プラトンの「国家」はその一つです。

人の本性が姿を表すのは、本当に追い詰められたときか、何もかも自由にできる権利を手に入れたときだけ。
普段の行動を見ているだけでは、その人のことは何ひとつわからないのです。
本当の自分はどういう人間なのかを知りたいのであれば、身の危険があるほと追い詰められたとき、あるいは何もかも自由にできる環境になったときの、自分の行動を見るしかありません。
ギュゲスの指輪は、思考実験を通し、自分はどういう人間なのかを想像すると同時に、人間の幸せについて教えてくれる話です。
ギュゲスの指輪に対するソクラテスの答えが、万人にとっての正解ではないかもしれません。
ですが、人間が持つ理性や倫理、罪悪感や後ろめたさといった感情を知ることは、より良い人生を生きるのに役立ちます。
それこそ、プラトンやソクラテスが現代人に残した教訓なのです。
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まとめ:ギュゲスの指輪から考える幸せ
ギュゲスの指輪は人間を完全に自由にします。
しかし、ソクラテスが述べているように、人間にとって本当に大切なのは外面的な自由などではなく、内面的な幸福です。
もちろん、幸福感は一人ひとり異なっているため、内面的な幸福を求めることがすべての人間の幸せにつながるとは限りません。
プラトンやソクラテスといった古代の哲学者たちが伝えたかったのは、「一人ひとりが幸せに生きるためにはどうするべきか?」ということです。
ギュゲスの指輪のような話は、人間が本当に幸せになるにはどう生きればいいのかについて教えてくれます。
現代ではつい自分のことばかりを考えてしまいがちですが、幸せになりたいのであれば、何よりも自分の精神の状態を汚さないことが大事なのかもしれません。
▼参考書籍